ベートーヴェン
①ピアノ・ソナタ第19番
②ピアノ・ソナタ第20番
③ピアノ・ソナタ第11番
④ピアノ・ソナタ第13番
⑤ピアノ・ソナタ第14番「月光」

メルヴィン・タン(フォルテピアノ)
録音:1993年

メルヴィン・タンのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集は全集の完成には至らなかったのが惜しまれますが、フォルテ・ピアノの音色の美しさ、そのニュアンスを伝える録音の良さ、そして演奏者のセンス、すべての条件が揃っている点で自信を持ってオススメできるものです。瑞々しいアーティキュレーションに乗せた情感が溢れ、楽器のまろやかな音色と一体となって、聴く者の心を捉え続けます。有名曲は最後の「月光」だけですが、それ以外の4曲もとても魅力的に響きます。フォルテピアノの爽快感を味わえるとともに、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの魅力を再発見できるアルバムです。

フォルテピアノのスペシャリストとして、この人の横に並ぶものはいないと言われてるメルヴィン・タン。 この人の演奏を聴いてると、「ああ、ベートーヴェンはこのような曲を作っていたのか…」と、その時代本来のベートーヴェンの本質が見えてくるような気がします。 現在のモダンピアノとまた違った、独特な響きも、また味わい深いです。

軽く、硬いタッチ。完璧なテクニック。澄んだ音色。それでいて、暗い曲は情緒深く、明るい曲は飛び跳ねる小鳥のよう。重厚なベートーヴェンとは対極にある。ただ、全曲完結しなかったことが残念で仕方がない。彼の弾く後期のソナタが聴きたかった。

1989年にタンが来日した折、フォルテピアノでベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を催したときのこと。指が回り切ってしまうからこそできるハイスピードなテンポのスタイルと、かなりの頻度で訪れる没我的な、耽美的とも言える瞬間との乖離に、ドイツ本流のベートーヴェンをイメージしていた人々はとまどいを隠しませんでした。しかし、タンの繊細な指から紡ぎだされる、この重量を感じさせない幻想味こそが、ヨーロッパでの彼の人気の根源だったのかも知れません。今、しっかり聴きなおしても、全く色褪せていない名演です。

輸入盤、盤面傷無し

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