【ジャパニメーションがすべてではない】　 日本のアニメーションを語るには、二つの流れがあるといいます。ひとつは1917年からはじまり東映動画を中心に実験アニメや人形アニメを含めて現在に至るもの、もうひとつは手塚治虫からはじまり吉田兄弟やサンライズを通じて現在のジャパニメーション主流に至るものです。この二つの流れは、どちらから側から眺めるかで日本アニメ史の意義が変わってしまうものであり、アニメの歴史を意味づけるための歴史観と言ってもいいでしょう。仮にその性質から前者を正統史観、後者をヲタク史観とでも名付けておきましょう。 　そこを踏まえて考えれば、本書はアニメの見方が二つに分かれていなかった時代のアニメ研究の集大成。いわば正統史観アニメ史の標準。正史とでも言うべきものです。最近のアニメへの言及がヲタク史観に偏っている中では、実験アニメや人形アニメの扱いがTVアニメやOADと平等でなく、海外アニメへの関心も限られています。現状はこれらが日本のアニメの発展に果たした役割が看過されているように思えます。しかし、現在のアニメの露出の程度から考えると、これらを平等の地平で捉えるのは不可能ではないにしてもかなり手間であり、ヲタク史観を押しのけて正統史観からアニメを語るのは大変なことです。ともすればアニメーションというものがセルアニメ、リミテッドアニメ、日本製アニメでしかないかの如き一般の風潮を打ち砕き、より広くより根本的なアニメーションへのアプローチを得るために、本書は極めて重要な文献です。津堅信之氏の著書もありますが、残念ながら今なお類例なくまったく色褪せない名著と言えます。

【目次】　序・手塚治虫　日本アニメの歴史1　日本アニメの歴史2　資料編　あとがき　索引


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